本記事では、COD(化学的酸素要求量)と水質の基礎知識をはじめ、基準値、BOD(生物化学的酸素要求量)との違い、測定方法、COD値を効果的に下げる対策を解説します。CODと水質への正しい理解と管理は、環境法令順守と企業の信頼性向上において欠かせません。本記事を読めば、適切な水質管理の具体的な進め方が明確になります。
CODとは、排水・河川・湖沼・海域などの水中において、どれだけ有機物が含まれているかを示す水質の重要な指標です。水質検査でCOD値を把握することにより、水環境の汚染度や浄化の進み具合を客観的に評価できます。
目次
CODとは?水質指標としての役割
まずは、CODの概念と水質指標としての役割や、BODとの違いを説明していきます。
CODの基本的な意味と役割
CODとはChemical Oxygen Demand(化学的酸素要求量)の略で、水質の汚染度合いを示す重要な指標です。CODの数値は、水中の有機物やその他の汚染物質を化学的に酸化分解する際に、消費される酸素の量(mg/L)を指しています。
具体的には、過マンガン酸カリウムなど、強力な酸化剤を使って水中の有機物を分解し、その際にどのくらいの酸素が使われたのかを測定します。数値が高ければ高いほど、その水に多くの汚染物質が含まれていると判断することが可能です。 主に、工場排水や下水処理水の管理に用いられており、河川・湖沼・海域といった公共用水域の汚濁状況を把握します。CODは、水質保全の対策を講じる上で欠かせない役割を果たしているのです。
COD値が高いとどうなるのか
COD値が高い水は、水質汚染の進行を示しており、環境や生態系に深刻な悪影響を及ぼす恐れがあります。
排水中に含まれる有機物が多いと、その有機物を分解する好気性微生物が活動する際に、水中の酸素を大量に消費します。結果、水中の溶存酸素(DO)が著しく低下することで、魚類をはじめとする水生生物が呼吸困難に陥り、最悪の場合は死滅してしまうのです。 また、微生物が大量発生して水面を覆い尽くすと、太陽光が水中に届かなくなり、植物プランクトンなどの光合成が阻害され、酸素の供給が滞ってしまいます。すると、水域全体の生態系バランスが崩れてしまい、悪臭の発生や透明度の低下など、さまざまな問題を引き起こす原因となります。
BODとの違い
COD(化学的酸素要求量)とBOD(生物化学的酸素要求量)は、どちらも水質の有機物汚染度を示す指標ですが、測定方法と対象とする有機物に違いがあります。
BODは、水中の微生物が有機物を分解する際に消費する酸素量を測定するため、微生物によって分解されやすい有機物(生物分解性有機物)の量を示します。 一方、CODは化学薬品を用いて有機物を分解する際に消費される酸素量を測定します。よって、生物分解性有機物のみならず、微生物では分解しにくい難分解性有機物も含み、より広範囲の有機物量を評価できる点がBODとの相違点です。
CODの水質基準と目安
CODの水質基準や目安について、次の3つの視点から解説していきます。
①水質汚濁防止法におけるCOD基準
CODは、水質汚濁防止法の「生活環境項目」の1つとして位置付けられ、排水基準が定められています。
同法では、工場や事業場から排出される水が公共用水域へ与える影響を抑制するため、排出水に含まれる汚染物質の許容濃度が厳しく決められています。
水質汚濁防止法におけるCODの排水基準は、原則として160mg/L(日間平均:120mg/L)ですが、すべての排水に対して一律に適用されるわけではありません。
実際の排水基準は、排出される水域の種類(海域、湖沼、河川など)や、特定施設の種類によって細かく設定されています。そのため、事業者は自社の排水が適用される基準値を正確に把握し、順守しなければなりません。 また、国が定める基準に加え、地方自治体が独自の条例として、より厳しい上乗せ基準を定めている場合があるため、地方自治体に確認しておきましょう。
②環境省・自治体による基準値の違い
CODの基準値は、国が定める環境省の基準と、各自治体が条例で定める基準により、二層構造となっています。環境省が定める基準は、全国一律に適用される最低限のものであり、水質汚濁防止法に基づいて定められています。
これに対して地方自治体には、その地域の環境特性や、水域の保全目標に応じて、国よりも厳しい独自の基準を設ける場合があるのです。これには「上乗せ基準」と「横出し基準」の2種類があります。
上乗せ基準は、国の一律排水基準で定められている物質と同じ項目に対し、さらに厳しい値を設定するものです。一方、横出し基準とは、水質汚濁防止法では規制対象となっていない物質や特定の業種に対し、自治体が独自に基準を設けることを指します。 これら2つの基準は、地域ごとの環境保全を強化するために設けられており、事業者は国と自治体の両方の基準を順守しなければなりません。
③COD値の目安と水質評価
COD値は、その数値によって水質の汚染度合いを評価する際の目安です。一般的に、数値が低いほど、水質は良好と判断されます。
環境省が定める湖沼の環境基準では、COD値は3mg/L以下が望ましいとされています(A類型:比較的高い利用目的を持つ水域)。この基準は、生活環境を保全し、公共用水域の水質を良好に保つための目標値です。
以下の表は、COD値と水質評価の一般的な目安を示しています。
COD(mg/L) | 汚れの目安 | 例 |
---|---|---|
1未満 | きれいな水 | きれいな渓流 |
1以上~2未満 | 普通の水 | 雨水 |
2以上~5未満 | 少し汚れている水 | 河川の下流水 |
5以上~10未満 | 汚れている水 | コイやフナが生息できる程度の汚水 |
10以上 | とても汚れている水 | 下水や汚水 |
CODの測定方法と実務
ここでは、CODの測定方法に関して次の3つを解説していきます。
- COD測定の原理と流れ
- パックテストによる簡易測定
- 測定時の注意点とポイント
それでは、一つずつ見ていきましょう。
①COD測定の原理と流れ
COD測定は、試料水に酸化剤を加え、一定条件下で化学反応を起こし、その際に消費された酸化剤の量から酸素消費量を算出するという原理に基づいています。
主に用いられる酸化剤は、二クロム酸カリウム(CODcr)と過マンガン酸カリウム(CODMn)の2種類です。どちらにも異なる特徴があり、測定結果にそれぞれが影響を及ぼします。二クロム酸カリウムは酸化力が非常に強く、水中のほとんどの有機物を酸化できるため、欧米では広く使用されています。
一方、日本では環境への影響を考慮し、酸化力はやや劣るものの、短時間で測定が可能な過マンガン酸カリウム法(CODMn)が主に採用されています。
ただし、排水中に含まれる有機物、と言ってもその化学構造によって酸化されやすさは異なります。そのため、CODMnとCODcrでは酸化率に大きな違いが生じることがあり、両者の値は単純比較できません。測定目的や対象水質に応じて、適切な手法を選ぶことが重要です。
測定の具体的な流れは、以下のとおりです。
- 選択した酸化剤と硫酸などの試薬を加え、加熱することで有機物を分解する
- 反応後残った酸化剤の量を滴定などの方法で測定する
- 初めに加えた酸化剤の量との差から、有機物の分解に要した酸素量を算出する
②パックテストによる簡易測定
事業場における日常的な水質管理や、緊急時の迅速な状況把握には、パックテストのような簡易測定キットが有効です。パックテストは使いやすさから、排水検査や飲料水検査といった業務用のみならず、小中学校から大学までの環境教育・環境学習の教材や、市民による河川の水質調査などの幅広い目的で活用されています。
特に、水環境のモニタリングにおいて、パックテストは水の汚れを示すCOD値の測定に利用できます。パックテストは、小さなポリエチレン製のチューブに調整された試薬が1回分ずつ密閉されており、使い捨てで使用できるのが特徴です。
使用する際はチューブの栓を抜き、採取した水を吸い込ませるだけで、簡単に測定できます。発色した液の色を標準色と比較することで、おおよそのCOD値を手軽に判定できるため、専門的な分析機器や高度な技術がなくても、現場で迅速に水質状況を把握することが可能です。 ただし、公的な報告やより精密な分析が必要な場合には、JIS法に準拠した詳細な測定をすることが推奨されます。
③測定時の注意点とポイント
CODの測定において、正確な水質評価をするためにはいくつかの注意点があります。
はじめに、過マンガン酸カリウム法でもっとも影響が大きいとされるのが、塩化物イオンの影響です。水中に塩化物イオンが多量に含まれていると、過マンガン酸カリウムと反応してしまい、実際の有機物量よりも高いCOD値が検出されかねません。そのため、測定前には塩化物イオンを事前に除去するか、測定後に適切な補正計算を実施することが必要です。
次に、酸化剤の種類も測定結果に影響を与えます。前述のとおり、二クロム酸カリウムと過マンガン酸カリウムでは酸化力が異なるため、同じ試料を測定しても、異なるCOD値が出る可能性があります。継続的なデータ管理をする場合は、必ず同一の酸化剤と測定方法を用いるようにしましょう。 さらに、測定時にはブランク値の取り扱いも重要です。試薬や蒸留水に含まれる微量の有機物による影響を排除するため、測定試料と同様の操作をブランク(空試験)で行い、その値を差し引いて算出する必要があります。
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COD値を下げる排水処理の方法
COD値を低減させる主な排水処理方法には、以下の3つが挙げられます。以下の方法は、排水の性質や規模に応じて単独で用いられたり、組み合わせて活用されたりしています。処理方法を選定する際には、「何がCOD値を押し上げているのか」を知っておくことが非常に重要です。
たとえば、生物処理やろ過処理は特定の有機物に対しては有効ですが、難分解性や溶存成分が主体の場合には、思うような効果が得られないことがあります。
あらかじめCODの由来成分や酸化率の特性を把握しておきましょう。
薬品処理による低減
COD値を下げるための排水処理として、薬品処理は有効な手段です。薬品処理は、凝集剤などの化学薬品を排水に加えることにより、水中に含まれる汚れの原因となる懸濁物質(SS)や、そのほかの浮遊物質を凝集させ、沈殿させることで水と分離させます。これらの物質と共に、CODも除去することが可能なのです。
薬品処理のメリットは、比較的低コストで、大規模な排水処理に対応できる点です。ほかの高度な排水処理プロセスを実施する前処理として、効率的な方法であると考えられています。
ただし、すべてのCOD成分に薬品処理が有効とは限りません。たとえば、水中に溶け込んでいる溶存性の有機物は凝集しにくいため、薬品処理のみでは十分なCOD低減が期待できないことがあります。 薬品処理で対応できないCOD成分が多い場合は、後続の処理として、生物処理や物理吸着処理などを組み合わせる必要が出てきます。排水の性質を正確に把握し、適切な薬品処理を適用することが、効率的な水質管理につながります。
物理処理・活性炭吸着法
物理処理にはろ過が含まれ、RO膜(逆浸透膜)・UF膜(限外ろ過膜)・MF膜(精密ろ過膜)といった膜ろ過技術は、排水中のCOD成分を効率良く除去できます。物理処理は、凝集処理などの薬品処理と組み合わせて用いられる場合が多く、相乗効果で排水処理能力を高めることが可能です。
ろ過処理では、「何を除去したいのか」によって、適切なろ過材や膜の種類を選定することが重要です。 たとえば、懸濁物質(SS)の除去にはMF膜が適している一方で、より微細な溶存物質や有機成分の除去にはUF膜やRO膜が有効です。目的に合ったろ過材を選ばないと、十分な効果が得られなかったり、逆にコストがかかりすぎる場合があります。
物理処理のメリットは、薬品の投入量を細かく調整する手間がなく、比較的安定してCOD値を低減できる点です。
ただし、膜の目詰まりや劣化による定期的な清掃や交換が必要で、そのメンテナンス作業に伴う手間やコストが発生します。また、COD濃度が非常に高い排水の場合、膜の負荷軽減のために、薬品処理による前処理が求められることもあります。
活性炭吸着法は、活性炭の微細な穴による吸着現象を利用してCODを除去する方法です。CODを含んだ排水を活性炭吸着塔に通すことで、効率良くCOD成分を吸着し、水質を改善します。 また、活性炭吸着法ならば、薬品処理で取り除けない溶存性のCODも吸着できる可能性があります。ただし、活性炭は使用するにつれて吸着能力が低下するため、定期的な交換や再生が必要となり、維持・管理に手間がかかる点がデメリットです。
生物処理の活用
生物処理とは、自然環境に見られる微生物の力を借り、排水中の有機物を分解・除去する仕組みです。化学薬品の使用を抑えられ、環境負荷が小さいという特徴があります。
生物処理を効率良く進めるには、微生物が活動しやすい環境を整えることが大切です。そのため、適切な温度管理や、十分な空気(酸素)供給が求められます。これらの条件を最適化することで、微生物は活発に有機物を分解し、CODを効果的に下げることが可能なのです。
ただし、生物処理には考慮すべき点もあります。高額な設備投資が必要となる場合があるため、排水量が少ない小規模な現場での導入は、費用対効果の面で難しい場合があるでしょう。 また、微生物の状態は、水温・pH・流入する有機物の量など、さまざまな要因に影響されます。このことから、安定した処理性能を維持するには、専門的な知識に基づいた運転管理が求められます。
まとめ|CODと水質への正しい理解と管理が必要
COD値が高い排水は、河川や湖沼などの公共用水域の環境や、生態系に深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。企業にとって、COD値を正しく理解し適切に管理することは、環境規制順守と企業の社会的責任を果たす上で必須条件です。
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