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【大腸菌と大腸菌群の違いを解説】水質検査で検出された場合にはどうする?
水質分析/各種環境分析

【大腸菌と大腸菌群の違いを解説】水質検査で検出された場合にはどうする?

2025.05.14

  • 井戸水水質検査
  • 飲料水水質検査
  • 大腸菌

この記事は「大腸菌群と大腸菌の違い」について、詳しく知りたい水質管理の担当者さま必見の内容です。実は、この2つの微生物の指標は異なる定義を持ち、適切な水質管理には正確な理解が不可欠です。

そこで、大腸菌群と大腸菌の違いから検査方法まで、詳しく解説していきます。最後までご覧いただき、基準値超過の原因と対応策を学びましょう。

大腸菌群と大腸菌の違い

まずは、大腸菌群と大腸菌の違いについて、定義を中心に説明していきます。

  1. 大腸菌群
  2. 大腸菌
  3. 環境基準改正の経緯【大腸菌数から大腸菌群数へ】
  4. 大腸菌群から大腸菌に変更される基準は?
  5. 大腸菌数と大腸菌群数の単位・分析方法の違い

一つずつ、詳しく見ていきましょう。

①大腸菌群

大腸菌群とは、水質や食品の衛生状態を判断するための指標として、広く利用されている微生物群です。乳糖を分解してガスを発生させる能力を持つ細菌の総称であり、公衆衛生上の分類として採用されています。

大腸菌群には大腸菌も含まれていますが、それだけではありません。実際は、土壌や植物などの自然環境に広く存在する細菌も含まれており、必ずしもふん便汚染を直接示すものではないというのが特徴です。

大腸菌群の検出は、水や食品の一次スクリーニングとして有効です。特に、多くの加工食品では、大腸菌群が衛生管理の判定基準として採用されています。 ただし、非加熱の野菜や果物からは、自然環境に由来する大腸菌群が検出されることがあるため、検出された場合には注意が必要です。

②大腸菌

大腸菌とは、人間や動物の腸内にいる細菌であり、大腸菌群よりも明確に定義された微生物です。多くの人が「大腸菌」という名前に悪い感情を持つ理由として、O157などの病原性大腸菌による食中毒のニュースに触れる機会が多いためと考えられるでしょう。

ただし、大腸菌のほとんどは実のところ無害なのです。

大事な点として、通常の大腸菌と病原性大腸菌を区別することが必要です。腸管出血性大腸菌O157のような病原性大腸菌は、生肉やレバーの加熱不足から感染し、最悪の場合は死に至るほどの危険な食中毒を引き起こします。 一方、私たちの腸内にいる大多数の大腸菌は、消化活動を助けて共生する関係にあります。

③環境基準改正の経緯【大腸菌群数から大腸菌数へ】

環境基準の歴史を振り返ると、昭和46年の環境基準設定時には「大腸菌群数」がふん便汚染の指標として重視されていました。当時、基準項目として「大腸菌群数」が選ばれた理由は、次のとおりです。

  • 人や動物の排せつ物中に大量に存在すること
  • 排せつ物以外には基本的に存在しないこと
  • 水域において一定の生存力を持つこと

一方、当時の技術的な限界から「大腸菌」のみを簡易に検出する方法は確立されていませんでした。そのため、より簡易に測定できる「大腸菌群数」が代替指標として採用されることとなったのです。

その後、培養技術は飛躍的に進歩し、大腸菌を簡易に測定する方法が確立されました。 つまり、ふん便汚染をより正確に把握できる指標として「大腸菌数」に基準項目が変更されたのです。

④大腸菌群から大腸菌に変更される基準は?

2025年4月1日より、水質汚濁防止法における排水基準の指標が「大腸菌群数」から「大腸菌数」に変更されました。より正確なふん便汚染の指標を用いるためです。

特定施設を有する工場・事業場の排水基準は以下のとおりです。

改正前後改正前改正後
項目大腸菌群数大腸菌数
基準値3,000個/cm³800CFU/mL
(※CFU:コロニーの形成単位)

これまで「大腸菌群数」を測定していた事業者は、この変更に伴い、2025年4月1日以降は「大腸菌数」の測定に切り替える必要があります。 この変更により、水質汚染の指標としてより的確な「大腸菌数」が用いられることで、水環境の保全と安全性の向上に期待できるでしょう。

⑤大腸菌群数と大腸菌数の単位・分析方法の違い

大腸菌群と大腸菌の違いは、単位と分析方法にも表れています。水質汚濁に係る環境基準で採用された方法を比較すると、以下のとおり違いが明確です。

項目大腸菌群数の特徴大腸菌数の特徴
単位MPN/100mL(最確数法)CFU/100mL(コロニー形成単位)
分析方法乳糖発酵試験による推定試験と確定試験特定酵素基質培地法
特徴広範囲の細菌を検出するため、偽陽性のリスクがある大腸菌に特異的な酵素反応を利用し、より正確にふん便汚染を判定

この違いにより、大腸菌数への移行で水質管理の精度が向上します。特に、食品工場や下水処理施設などの水質管理担当者の方は、この変更を踏まえて適切に対応しましょう。

大腸菌群と大腸菌の検査の重要性

大腸菌群と大腸菌の検査の重要性を示すものとして、以下が挙げられます。

  1. 大腸菌を調べる理由
  2. 大腸菌群数用と大腸菌数用の培地の成分・特徴

それでは、順番に詳しく見ていきましょう。

①大腸菌を調べる理由

大腸菌を調べるのは、大腸菌がふん便汚染の指標として機能するためです。大腸菌自体は、健康な人の腸内に常在する共生菌であり、多くの場合は無害です。

しかし、大腸菌の存在は、ほかの有害な病原菌が存在する可能性を示唆します。サルモネラや病原性大腸菌O157などの危険な細菌は、大腸菌と同じ環境に生息することが多いのです。

そのため、水質検査で大腸菌が検出された場合は、その水がふん便によって汚染されている可能性が高いと判断されます。飲料水や食品加工用水の安全性を確保する上では、極めて重要な情報です。 さらに、大腸菌は自然界での生存力が比較的高いため、長期的な汚染状況の把握にも適しているといえるでしょう。

②大腸菌群数用と大腸菌数用の培地の成分・特徴

これまで、大腸菌群と大腸菌の検査では異なる培地を使用していましたが、近年では1種類の培地で同時に識別・培養できるクロモジェニック培地も利用されています。
目的や検出精度に応じて適切な方法を選択することで、より効果的な水質管理が可能です。

項目従来の「大腸菌群数」用の培地従来の「大腸菌数」用の培地新しい識別培地
成分乳糖を含む培地(例:BGLB培地)特定酵素基質培地(例:EC培地)クロモジェニック酵素基質培地(例:Chromocult Coliform Agar、CHROMagar ECCなど)
目的乳糖を分解してガスを発生させる細菌(大腸菌群)の検出大腸菌に特有の酵素反応を利用した選択的検出大腸菌群と大腸菌を色の違いで同時に識別
特徴ふん便由来以外の細菌も含まれるため、広範な汚染指標として利用されるふん便汚染を直接示す指標として、より正確な衛生管理が可能大腸菌群(ピンク~紫)、大腸菌(青~水色)のコロニーを1枚で識別可能

2025年4月からは、大腸菌群数から大腸菌数への基準変更が進むため、特定酵素基質培地法やクロモジェニック培地の利用が主流となると考えられます。

ふん便指標菌として見る大腸菌群と大腸菌

大腸菌群は乳糖を分解する能力を持ち、この特性から哺乳動物と密接な関係を持つ菌であることは明らかです。人間のふん便から常に大腸菌群が検出されることから、長期間にわたりふん便汚染の指標として使用されてきました。

ただし、科学的な観点から見ると、大腸菌群には例外が存在します。この中には、必ずしも哺乳動物のふん便と関連せず、独立して環境中で生活している種も含まれているのです。

乳糖を分解できる大腸菌群として定義される細菌の中には、人間のふん便とは無関係であり、自然環境にも生息している種が存在するという事実があります。この事実は、大腸菌群がふん便汚染の純粋な指標として、科学的に不適格であることを示しています。ふん便汚染がなくても、清浄な自然環境にも大腸菌群が存在する可能性があるためです。

ふん便系大腸菌群

ふん便系大腸菌群は、大腸菌群の中でもふん便汚染をより正確に示す指標です。ふん便系大腸菌群は、44.5℃という高温での培養によって特定されます。

ふん便系大腸菌群の特徴は、以下のとおりです。

  • 高温(44.5℃)で増殖が可能
  • 大腸菌(E.coli)を含む、ふん便由来の菌群
  • 環境中の非ふん便性菌の多くを除外

この高温培養法により、自然環境に由来する菌種の大部分が除外され、ふん便汚染をより正確に反映します。世界保健機関(WHO)は、大腸菌検査が困難な場合の代替指標として、ふん便系大腸菌群の使用を認めています。

大腸菌が基準値超えとなる原因は?

水質検査で大腸菌が基準値を超過する主な原因として、以下のようなケースが考えられます。

第一に、汚水や異物の混入です。排水設備の老朽化や配管の破損により、周辺環境から汚染物質が入り込むことがあります。また、大雨や洪水などの気象条件の悪影響により、地下水への汚染リスクが高まります。

次に、消毒設備の故障や不具合も原因の一つです。塩素注入装置の故障や塩素濃度の管理不足により、殺菌効果が十分に得られないケースがあります。そのため、定期的な設備点検と適切な消毒剤の管理が欠かせません。

貯水槽内の清掃不足や給水システム内のバイオフィルム形成も、基準値超えの原因となり得ます。長期間清掃していない貯水槽は、大腸菌の温床となる可能性があるためです。 大腸菌が基準値を超えて検出された場合は、水質汚染の可能性が高いため、直ちに飲用を中止し、原因を究明しなければなりません。

大腸菌群や大腸菌が検出された場合はどうする?

水質検査で大腸菌群や大腸菌が検出された場合には、適切な対応が求められます。

これらの細菌は、75℃で1分間以上の加熱処理やアルコール消毒で死滅することが知られています。ただし、適切に処理したつもりでも、大腸菌群や大腸菌が検出される場合もあるでしょう。主な原因としては、以下のようなケースです。

まず、加熱後の工程における二次汚染の可能性が考えられます。消毒が不十分な手指や器具を使用した場合は、処理済みの水が再び汚染されることがあります。水処理施設では、配管系統の一部に汚染源が潜んでいる可能性も考慮すべきです。

次に、加熱処理の不備が挙げられます。温度計の故障や校正ミスにより、実際の温度が正しく反映されていなかった可能性もあるでしょう。加熱むらにより、一部が適切に温度処理されていないケースも考えられます。

さらに、バイオフィルムの形成によって消毒効果が減少している場合もあります。配管内部や貯水タンクにバイオフィルムが形成されると、通常の消毒処理では完全に除去できないことがあるためです。 大腸菌群や大腸菌が検出された場合には、処理工程の全体を見直し、汚染源の特定と適切な対策を取りましょう。

大腸菌が基準値を超えたときに取るべき対策

水質検査で大腸菌が基準値を超過した場合、水源や用途に応じて、以下の対策を講じる必要があります。

「水道水」の場合「井戸水」の場合
貯水槽の清掃頻度を年1回以上に増やす飲用時は5分程度の煮沸処理を徹底する
残留塩素濃度を0.1mg/L以上に維持する未消毒の場合は塩素滅菌装置を設置する
給湯システムの温度管理:貯湯60℃以上既存の消毒設備の稼働状況と薬剤残量を確認する
給湯システムの温度管理:給湯55℃以上浅井戸では雨水や汚水の侵入防止策を強化する

上記の対策を取った後は、再度水質検査を実施し、異常がないか安全性を確認してください。定期的なモニタリングと設備メンテナンスを通じて、継続的な水質管理を実施しましょう。

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まとめ|大腸菌群と大腸菌の水質検査で適切な水質管理を

大腸菌が基準値を超える主な原因として、以下が挙げられます。

  • 汚水や異物の混入
  • 消毒設備の故障や不具合
  • 貯水槽内の清掃不足
  • 給水システム内のバイオフィルム形成など(給水設備のパッキンやシール材の劣化・ヒビ割れから混入)

普段から塩素添加による消毒をしていたにもかかわらず、一度だけ添加を忘れたことから、腸管出血性大腸菌のO121が検出されたという事例がありました。 特に井戸水や湧き水は、周囲の環境や気候条件によって水質が変化するため、消毒不足が重大なリスクにつながります。また、通常は流れのある池や川でも、雨不足などで水が滞留し、大腸菌が繁殖した事故もあります。

このようなリスクを防ぐためには、日頃から貯水槽内の点検や消毒設備の正常作動確認が不可欠です。定期的なメンテナンスと適切な水質管理により、安全な飲料水の供給と事故の防止につながります。最適な検査項目のご相談も承りますので、ぜひアムコンまでご相談ください。

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