ノルマルヘキサン抽出物質(JIS規格: n-ヘキサン抽出物質)は、水中の油分や有機物を示す重要な指標であり、環境基準が厳しく定められています。
この記事では、ノルマルヘキサン抽出物質の概要から排水基準、効果的な処理方法まで詳しく解説します。 この記事を読めば、水質基準に適合した排水処理の具体的な方法と注意点が分かるようになるでしょう。工場や飲食店の排水管理担当者は必見です。
目次
ノルマルヘキサン抽出物質とは何か?
ノルマルヘキサン抽出物質とは、水中の油分や有機物などを表す指標のことです。ここでは、ノルマルヘキサン抽出物質について、次の3点を解説していきます。
- ノルマルヘキサンについて
- ノルマルヘキサン抽出物質は油分などを表す指標
- ノルマルヘキサン抽出物質に含まれる物質
それでは、詳しく見ていきましょう。
①ノルマルヘキサンについて
ノルマルヘキサンは、石油精製過程で生成される代表的な有機溶剤の一つです。特徴的な石油臭を有し、無色透明の液体です。性質として、水に溶けにくく油分との親和性が高いという特性があり、水中の油分を抽出する溶媒として広く活用されています。
工業分野では、塗料や接着剤の溶剤として使用されるほか、食品産業では食用油の抽出にも用いられています。
また、ノルマルヘキサンは揮発性が高く、室温でも容易に気化するため、取り扱いには注意が必要です。さらに、引火性も高いことから、安全管理が欠かせません。 水質検査の分野において重要な点は、ノルマルヘキサンが油分のみならず、界面活性剤や染料などの有機物質も溶解・抽出する性質を持つことです。
②ノルマルヘキサン抽出物質は油分などを表す指標
ノルマルヘキサン抽出物質とは、水中の油分量を計測するための代表的な水質汚濁指標です。この指標は、ノルマルヘキサンという有機溶媒を用いて、水中から抽出される物質の総量を測定することで評価されます。
水質管理において重要な点は、この値が純粋な油分のみならず、界面活性剤や樹脂類も含む総合的な汚染度を示すことです。基準値を超過した排水が河川などの公共水域に放流されると、水面に油膜が形成され、水中の酸素供給が妨げられます。すると、水生生物の生存環境が悪化し、魚類の大量死や悪臭発生などの深刻な環境問題を引き起こす恐れがあります。
このことから、ノルマルヘキサン抽出物質の適切な管理は、水環境保全において不可欠な要素なのです。
③ノルマルヘキサン抽出物質に含まれる物質
ノルマルヘキサン抽出物質の主要な構成要素は、動植物油脂や脂肪酸です。ほかにも、ワックス類や界面活性剤などの要素も含まれます。
排水問題を抱えやすい事業所として、食用油を多量に使用する食品工場が挙げられます。フライ加工や油脂を多く含む食品の製造工程からの排水は、ノルマルヘキサン抽出物質の濃度が高くなる傾向にあるのです。
また、金属部品のバレル研磨をする製造業でも、同様の課題が多く見られます。研磨剤に含まれる油分が排水に混入するためです。
効果的な処理をするためには、排水に含まれるノルマルヘキサン抽出物質が何に由来するものなのか、明確に把握しておきましょう。鉱物油由来と動植物油脂由来では、処理方法が異なるためです。
ノルマルヘキサン抽出物質の排水基準【水質汚濁防止法・下水道法】
水質汚濁防止法と下水道法の双方において、ノルマルヘキサン抽出物質の排水基準が定められています。
以下では、それぞれの法令における基準を見ていきましょう。
①水質汚濁防止法の排水基準
環境省が定める一般排水基準では、ノルマルヘキサン抽出物質について、油分の種類によって異なる許容限度が規定されています。具体的には、以下の2種類です。
・ノルマルヘキサン抽出物質含有量(鉱油類含有量):5mg/L
・ノルマルヘキサン抽出物質含有量(動植物油脂類含有量):30mg/L
この基準値は、事業活動から排出される排水が、公共用水域に与える影響を最小限に抑えるために設定されています。鉱油類は生分解性が低く、環境への影響が大きいため、動植物油脂類と比較して厳しい基準値が適用されています。
参考:環境省「一般排水基準」
②下水道法の排水基準
下水道への排出基準値は、鉱油類と動植物油脂類について、それぞれが各自治体の下水道条例で規定されています。
ただし、鉱油類については、下水道法施行令によって全国一律5mg/Lと定められています。鉱油類は生物学的分解が困難なため、生物処理を主体とする下水処理場では効果的に処理できないためです。
一方、動植物油脂類については、各自治体の条例ごとに基準値が異なる場合があります。
参考:神戸市「下水道における水質規制」(P11~)
ノルマルヘキサン抽出物質の処理
ノルマルヘキサン抽出物質の処理方法は、次の4つです。
- 自然浮上分離法
- 浮上分離法
- 凝集沈殿法
- 吸着法
以下で、順に説明していきます。
①自然浮上分離法
日常生活でも経験するように、水と油を混ぜると、油が上部に浮かび上がる現象が見られます。これは油の比重が水よりも軽いという物理的な性質によるものです。
自然浮上分離法とは、比重差を利用したノルマルヘキサン抽出物質の処理方法をいいます。グリストラップやオイルセパレーターなどの装置を用いて、排水中の油分を効率的に分離させます。水と油の自然な性質を生かすため、複雑な機械システムを必要とせず、シンプルな構造で油分の除去が可能です。
また、自然浮上分離法のメリットは、導入コストの低さです。初期投資が比較的少なく済むため、多くの飲食店や工場などの事業所で、前処理方法として広く採用されています。
②浮上分離法
浮上分離法では、装置内に微細な気泡(マイクロバブル)を送り込み、水中の油分であるノルマルヘキサン抽出物質を気泡に付着させ、水面に浮上させます。
自然浮上分離法と比較すると、処理時間を短縮できる点がメリットです。また、気泡が油分を素早く捉えるため、自然に油分が浮上するのを待つ必要がありません。
食品工場や飲食店など、大量の油分を含む排水を短時間で処理する施設では、有効な方法といえるでしょう。 ただし、マイクロバブルを発生させる専用装置が必要なため、設備投資のコストがかかります。また、気泡発生装置の調整や運用管理が難しい点に注意が必要です。
③凝集沈殿法
凝集沈殿法では、凝集剤を排水に添加することで油分を含む微粒子を集め、ノルマルヘキサン抽出物質を沈降させて除去します。本来、浮力がある油分を沈殿させる仕組みであり、薬剤の選定と投入量の調整が処理効率を左右します。
凝集沈殿法のメリットは、懸濁物質(SS)が多く含まれる排水であっても、処理対象物質を同時に処理できる点です。工場排水など、複数の汚染物質が混在する場合に有効な手法といえるでしょう。
ただし、ノルマルヘキサン抽出物質の種類によっては、十分に沈降せず水面に浮上してしまうケースがあります。 このような場合は、加圧浮上装置を併用するといいでしょう。
④吸着法
吸着法とは、活性炭などの特殊な吸着剤を用いて、水中のノルマルヘキサン抽出物質を除去する方法です。
吸着法の最大の特徴は、ほかの方法では除去しきれない低濃度のノルマルヘキサン抽出物質にも効果を発揮する点です。また、微量の油分でも確実に捕らえられるため、排水基準値をクリアする最終工程として重要な役割を果たします。
一方、高性能な吸着剤は比較的高価であり、油分を吸着すると性能が低下するため、定期的な交換が必要です。そのため、排水中の油分濃度をあらかじめ低減させておく前処理が欠かせません。
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ノルマルヘキサン抽出物質の除去に当たっての注意点
ノルマルヘキサン抽出物質を効果的に除去するためには、以下の点に注意が必要です。
- 鉱油・動植油脂類の分類の明確化
- 油分の由来と性質の正しい理解
- 適した処理方法の検討
- 検査・検証は環境計量証明事業者の登録機関に依頼
これらのポイントについて、詳細を解説していきます。
①鉱油・動植油脂類の分類の明確化
ノルマルヘキサン抽出物質対策においては、鉱油と動植物油脂を正確に区別することが不可欠です。これら二種類の油分は規制値が異なるため、的確な分類が適切な処理方法選択の基礎となります。
鉱油は主に工業活動から発生する石油製品や機械油などを含み、水質汚濁防止法では5mg/L以下という厳格な基準が適用されています。
これに対し、食品工場や飲食業から排出される動植物油脂については、30mg/L以下という相対的に寛容な基準値が設定されています。
②油分の由来と性質の正しい理解
油分の主な由来がSSである場合、まずは固形物の除去に注力すると、ノルマルヘキサン抽出物質の値も自然に低下することに期待できます。沈殿槽や浮上分離装置によるSS除去が効果的でしょう。
一方、エマルジョン化した油分は、目に見えなくても高濃度で存在する可能性があります。その場合、SS濃度が0mg/Lであっても、ノルマルヘキサン抽出物質が100mg/Lを超えるといった状況も珍しくありません。 このようなケースでは、凝集剤の使用や吸着法など、乳化油を対象とした特殊な処理方法の検討が必要です。
③適した処理方法の検討
油分がSSに由来する場合、固形物を優先的に取り除くことにより、ノルマルヘキサン抽出物質の数値も自然に減少すると見込めます。この状況では、沈殿槽や浮上分離装置を用いたSS除去が有効な対策です。
これに対し、エマルジョン状態の油分は、視認できなくても高濃度で存在することがあります。このような場合、SS濃度がゼロでも、ノルマルヘキサン抽出物質が100mg/Lを超える事例も少なくありません。
こうした状況に対処するには、凝集剤の利用や吸着処理など、乳化状態の油分に特化した処理技術の導入を検討する必要があります。
④検査・検証は計量証明事業者の登録機関に依頼
ノルマルヘキサン抽出物質を含む排水の処理効果を評価する際は、外部分析機関への検証・依頼が不可欠です。目視での判断では、正確な除去状況を把握できないためです。
専門の分析機関では、ノルマルヘキサン抽出物質濃度を定量化し、規制値を満たしているかどうかを客観的に評価できます。特に、計量証明事業者として認定された機関を選択することで、信頼性の高い測定結果を取得することが可能となります。適切な第三者検証を実施することにより、排水処理システムの効果を確実に確認し、環境負荷を最小化できるでしょう。
アムコンは排水中の物質濃度に関する計量証明書を発行することのできる、計量証明事業(濃度)の法定登録検査機関です。
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ノルマルヘキサン抽出物質に関するよくある質問
ここからは、ノルマルヘキサン抽出物質について代表的な疑問3点を解説します。
- ノルマルヘキサン抽出物質とは?
- ノルマルヘキサン抽出物質の排水基準は?
- ノルマルヘキサン抽出物質の海域での環境基準は?
各質問について、分かりやすく説明していきます。
①ノルマルヘキサン抽出物質とは?
ノルマルヘキサン抽出物質とは、特定の有機溶媒(ノルマルヘキサン)を用いた分析手法で検出される水中の物質群のことです。この分析法では、水中に存在する油成分や特定の有機物質が定量化され、水質評価の重要な指標として環境管理分野で活用されています。
特筆すべき点としては、単なる油分だけでなく、界面活性剤・ワックス成分・脂肪酸などの有機物質も検出対象となるため、複合的な有機物質群を包括する概念ということです。 排水管理においては、これらの成分の発生源や化学的特性を正確に理解し、最適な浄化技術を選定することが効果的な対策につながります。
②ノルマルヘキサン抽出物質の排水基準は?
分類 | 基準値 | 主な発生源 |
鉱油類 | 5mg/L | 機械工場・ガソリンスタンドなど |
動植物油脂類 | 30mg/L | 食品加工・飲食施設など |
ノルマルヘキサン抽出物質の排水基準は、水質汚濁防止法と下水道法で規定され、双方ともに鉱油類の排水基準は5mg/L以下です。ただし、動植物油脂類に関しては、水質汚濁防止法では30mg/L以下と定められているものの、下水道法では各自治体の条例によって異なるケースがあります。
異なるケースがある理由は、鉱油類が生物学的な分解を受けにくいためです。下水処理場では、主として生物処理が行われるため、鉱油類の処理が難しく、鉱油類の基準値が厳しく設定されています。
一方、動植物油脂類は、鉱油類と比べて生分解性が高いため、自治体ごとに実情に応じた基準値が設けられるケースがあります。
参考:環境省「一般排水基準」
参考:神戸市「下水道における水質規制」(P11~)
③ノルマルヘキサン抽出物質の海域での環境基準は?
ノルマルヘキサン抽出物質の海域における環境基準は「検出されないこと」と定められており、検出下限値0.5mg/L未満です。この基準は、海洋環境の保護を目的としています。
海域だけでなく、河川や湖沼などの陸水域においても、油分は水質に悪影響を及ぼします。特に、鉱物油はその影響が大きい傾向にあります。 具体例として、石油臭による水質価値の低下や、下水処理場の機能阻害などの事例が挙げられます。海域では、魚介類へ臭いが付着したり、死亡させたりするリスクが伴うでしょう。
まとめ | ノルマルヘキサン抽出物質の排水分析はアムコンにご相談ください
ノルマルヘキサン抽出物質は、水中の油分量計測における代表的な水質汚濁指標です。基準値を超過した排水が河川などの公共水域に放流されると、水面に油膜が形成され、水中の酸素供給が妨げられます。
ノルマルヘキサン抽出物質の排水分析やお困りごとは、ぜひアムコンまでご相談ください。
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